2022年6月15日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」

行動経済学第2弾:広告クリエイティブへの活用は用法・用量に留意

行動経済学は広告やマーケティング施策のプランニングにも有用

NRIマーケティングレポート前号(Vol.82では、広告効果の「解釈」「説明」に、行動経済学を活用していくことをご提案したが、消費者の「不合理な経済行動」 の解明を志す行動経済学理論は、広告やマーケティング施策のプランニングにおいてももちろん有用だ。たとえば、周りがやっていると自分もやりたくなる心理に注目し「皆さん始めてます」「業界売上No.1」などのフレーズを用いたバンドワゴン効果や、同じ金額でも、利得より損失の方が重視される心理に着目し、「お得です」ではなく「やらないと損」との訴求で行動を促す損失回避性などの事例は、容易に思いつくだろう。近年の消費者がユーザー評価を強く参照する傾向も、第三者の意見は当事者の意見より信頼できると考えるウィンザー効果として説明できる。

インサイトシグナルでは消費者に「買いたくなった広告とその理由」を自由回答で聴取したが、そこでも行動経済学が奏功している事例がいくつも見られた。例えば、「プラズマ乳酸菌のインパクトがある、「プラズマ乳酸菌の言葉と、免疫に機能するというので興味がわいた」などの回答は、 「よくわからないけどすごそう」な言葉で惹きつけるジンクピリチオン効果が奏功したと考えられるし、ネット金融商品が「元手0円で株が始められるキャンペーンに魅力を感じた」との回答は、いったん無料で保有してしまうと失うのがもったいないと感じる保有効果を用いたことにより、投資を始めることの心理的ハードルを大きく押し下げたものと見られる。こうした行動経済学の理論がポジティブに働いた例はほかにも散見されるが、一方で失敗例と見られるものもある。

使い方を間違ると不快感や反感を生む危険性もある

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同時に聴取した「買いたくなくなったCMとその理由」からは、行動経済学理論のやりすぎ・盛りすぎにより、むしろ購買意識を損なった例も多く見られた。例えば、「やらないと損」を強調しすぎた例では、「脅されているようで不快」「人のコンプレックスを刺激する嫌な広告」などとして挙がる割合が多かった。

人混みの中でも相手の会話が耳に入る、自分の名前に反応する心理を利用して、「〇〇なあなたに!」との呼びかけで対象者の注意を喚起するカクテルパーティー効果では、対象者のペルソナの設定を誤ってしまうと、むしろそっぽを向かれてしまうこともある。

また、接触回数が増えることで身近に感じて好意を抱く単純接触効果(ザイアンス効果)が期待される連呼型/大量出稿型広告では、インパクトが強すぎるものはTOO MUCHに感じられ、「不快」なCMとして挙がる割合が多かった。全体的に、程度を誤ると裏目に出るものが多く、行動経済学理論は「ほの見える」程度の活用がされている方が、「買いたくなったCM」に挙がる傾向が高かったかもしれない。

まとめると、行動経済学理論を、広告やマーケティング施策に「ナッジ」(肘で押しやる、転じて、さりげなく働きかけ、その人物が自主的に望ましい方向へ行動するように導く)として活用することは有用ではあるが、活用の程度には注意が必要である。特に、なかなか理屈通りに動かない「感性」が先立つ広告クリエイティブであるが、だからこそ不合理を前提とする行動経済学との相性は良い。用法・用量に留意して、うまく使っていきたいところである。

NRI マーケティングサイエンスコンサルティング部 松下東子

NRIマーケティングサイエンスコンサルティング部では、シングルソースデータによる生活者の行動を毎日継続的に収集しております。お客様のテーマや課題にあわせて、データの追加調査や分析をおこない、マーケティング課題解決のお手伝いをいたしますので、こちらより、お気軽にお問合せください。