2022年6月 8日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」
データが助けてくれない「解釈」「説明」に、行動経済学の活用を
生活者の「不合理な経済活動」にアプローチする行動経済学
データ活用はマーケティングの基本動作になったと言っても過言ではないが、データが何でも教えてくれるわけではない。
例えばある野菜ジュースのキャッチコピーの候補が二つあったとき、どちらがより優れた効果を期待できそうかは、図1のような簡単なABテストを行えば見当がつく。しかしなぜAよりBの方が効果が高かったのかは、マーケター自身が解釈する必要がある。より多くのデータ、より高度な分析手法が利用可能であったとしても、それは変わらないだろう。
図1:提示されたキャッチコピーを見た後の、野菜ジュースの購入意向
そこで今回は、生活者の行動や意思決定を紐解く一つのツールとして、行動経済学を紹介する。行動経済学とは一言で言うと、経済学に心理学の要素を加えることで、「不合理な経済行動」を解明することを志向した学問だ。
図2は行動経済学で提唱されている理論のほんの一部だが、完全に合理的な人間であれば起こりえない事象を説明することができ、生身の生活者を相手にするBtoCのマーケティングでは特に、活用の余地が大きいと考えられる。
図2:行動経済学の理論の例
図1でAとBの結果に差が出た理由はいくつか考えられるが、行動経済学の「確証バイアス」でも説明が可能だ。
確証バイアスとは、自分の考えなどを正当化するために、その裏付けとなる情報を積極的に集めてしまう傾向のことを指す。健康は気になるけれど、本音を言うと野菜はあまり沢山食べたくないという人にとって、これを飲むだけで「一日分」の野菜が摂れるというのは、免罪符のようなありがたみがあることだろう。このため、Bのコピーはターゲット層に優先的にキャッチしてもらいやすく、Aより高い効果が表れたと考えられる。
まずは行動経済学を知り、解釈・説明に使うところから
但し行動経済学は、そもそも「不合理な人間」を対象にしていることもあってか、狙って効果を出すのはなかなか難しい。当然不発に終わることもあるし、生活者の感情を逆撫でして反感を買い、最終的には「炎上」してしまうこともある。(この辺りは事例を交えた紹介の方がわかりやすいので、興味のある方は当部までお声掛けをいただきたい。)
そのためマーケティングへの活用は、段階的に進めていくのがよいと考える。つまり新規のプロモーション施策などにいきなり組み込もうとするのではなく、まずは行動経済学で提唱されている様々な理論を理解し、目の前にあるものの解釈や説明に使う、ということだ。冒頭の野菜ジュースの例のように、日々のマーケティング施策の結果として集まるデータの解釈に活用する、代理店から提示されたクリエイティブ案の選定根拠に使うなど、役に立つ場面は多い。
このフェーズでの活用に炎上などのリスクはないし、行動経済学を通じて成功・失敗の要諦を掴むことができれば、自社商品・サービスに合った「生活者の動かし方」が見えてきて、成功事例の横展開などもしやすくなるだろう。
出所)NRI インサイトシグナル調査 (2022年3月、関東男女20-60代)
NRI マーケティングサイエンスコンサルティング部 白井雄志