2019年11月 1日

-マーケターが押さえておきたい効果的な広告の使い方- 【ターゲティングメディアとしての交通広告活用】

Web媒体に代表されるターゲティングメディアの需要が高まる中、マス媒体の在り方に再度注目が向けられている。Web媒体がどんなに効率よくターゲットにリーチできる媒体であっても、テレビCMに勝るリーチ率を獲得することは困難であり、マス媒体とターゲティングメディアの効果的な共存方法や、オールターゲットではないマス広告の使い方に関心が集まっている。

今回は、マス媒体として広いリーチ率を獲得しながらも、ターゲティング性が期待できる交通広告にフォーカスして、その特性と活用のポイントを紹介する。

交通広告リーチ者の特性

電車内に掲出される中吊り広告やビジョン広告などの車両広告において、その出稿路線を週1回以上通勤や通学などで定期的に利用している人を広告リーチ者と定義する。JR首都圏全線に出稿する場合、関東20~69歳の35.6%、JR・東京メトロ・都営・その他私鉄など関東にある主要路線にすべて出稿すると50%を超える生活者にリーチできる。

JR首都圏全線のリーチ率は、新聞主要5紙(朝日新聞、讀賣新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞)にすべて出稿した場合よりも高く、関東圏においてはテレビCMに次ぐリーチ率が期待できる媒体である。

交通広告リーチ者の属性をみると(図1参照)、テレビCMや新聞広告のように高年齢層に偏らず、性年代偏りなくリーチでき、特に若年へのリーチ率では、マス媒体随一の広さを誇る。また、有職者比率、特に首都圏へ出社する人が顕著に多い点を踏まえると、交通広告に触れる生活者は、テレビCMや新聞広告とは大きく異なる。あなたが告知したい商材が若年や有職者層と親和性が高いカテゴリであるならば、交通広告を活用する価値は高い。

図1 JR首都圏全線出稿時におけるリーチ者属性

000277_001.png出所)NRIシングルソース調査(関東20~69歳、2019年調査結果より)以下同

効率性に影響するクリエイティブ認知率

広告効果に影響する大きな要素として、広告接触者あたりのクリエイティブ認知率があげられる。車両広告の場合であれば、出稿した路線を利用している人のうち、何%の人がクリエイティブを認知したか、という指標をKPIとすることが重要である。

図2は、ある商材Aにおける路線利用者あたりのクリエイティブ認知率を示す。路線利用者全体ベースでみると、クリエイティブ認知率は12.6%というスコアであったが、該当カテゴリの利用頻度別にみてみると、ヘビーユーザーの認知率は25.5%と顕著に高い。あらゆる商材においてこの傾向がみられるわけではないが、対象カテゴリとの親和性の高いユーザーの方が、よりクリエイティブの記憶が残りやすい。

これらの特性を生かした媒体がWeb媒体を代表するターゲティングメディアであり、従来のマス媒体においてはこのコントロールを苦手とする。特にテレビCMにおいては、局所的に特定カテゴリのヘビーユーザーに対してリーチができるケースは少なく、コントロールの余地は極めて少ない(シニア向け商材やタイム出稿を除く)。その中で、若年においてもカテゴリ親和性の高いユーザーに効率よくリーチできる可能性があるマス媒体が交通広告である。

図2 出稿対象カテゴリ利用頻度別クリエイティブ認知率

000277_002.png

交通広告における対象カテゴリユーザーリーチ率の重要性

多くの交通広告における効果検証を行う中で、交通広告の効果が「対象カテゴリとの親和性の高いユーザーにおけるリーチ率」と連関するケースが多く見受けられている。

図3は、2017年~2019年にインサイトシグナルにて調査を行った22商材、35広告の調査結果をプロットしたものである。横軸は対象カテゴリユーザーにおけるリーチ効率性(対象カテゴリユーザーのリーチ率÷生活者全体のリーチ率のリフト値を計算)、縦軸は対象の交通広告接触における利用意向への効果を示す。リーチ効率性は、例えば出稿対象がゲームアプリの場合、全体ベースのリーチ率よりも、スマートフォンでゲームをよく利用する人へのリーチ率の方が高ければ効率が良い(=リフト値が高い)ことを示している。

一つ目のポイントはリフト値の振れ幅だ。中には生活者全体の約1.9倍のリーチ率を対象カテゴリユーザーでたたき出している事例もあり、マス広告でこれだけの偏りを作り出せる媒体は稀有である。

二つ目のポイントは、対象カテゴリユーザーに効率よくリーチできた広告において、利用意向への効果が得られるケースが多い。つまり、対象カテゴリユーザーと路線利用者の相性の良さが、交通広告全体の効果に影響しやすいことである。さらに、Web媒体と比べてリーチ率が圧倒的に高いため、広告対象との相性が良ければターゲティング性がありながらも大規模な効果が期待できる。

図3 交通広告における出稿対象カテゴリユーザーリーチ効率性と利用意向への効果

000277_003.png

今回は、交通広告のリーチ者が他のマス媒体と異なる点に着目して、効率的に効果を創出している事例をご紹介した。ターゲットを絞った広告出稿を検討する際には、Web媒体だけでなく、交通広告もターゲティングメディアとして活用できる可能性があることを念頭において、プランニングをすることが望ましい。