2019年9月 1日
-マーケターが押さえておきたい効果的な広告の使い方- 【クロスメディアでのクリエイティブの在り方】
今日では、複数のメディアを組み合わせるクロスメディア出稿がよく活用される。ターゲットに対して、「効率的にアプローチできるメディアは何か」「どのメディアで何を伝えるか」など、プラン決定の際には、「メディア」と「クリエイティブ」の両面から検討する必要がある。今回は、過去事例の分析結果とともに、「クリエイティブ」の観点からクロスメディアの在り方を考察する。
メディア環境のデジタル化によるクリエイティブ素材への影響
メディアプランの検討段階においてデジタル化が進んだことにより、大きく変わった点がある。クリエイティブ素材がメディアの垣根を超えたことであり、これまでは、ある程度メディアとクリエイティブ素材の形式に対応関係があったが、現在では同じ素材を様々なメディアで活用することができる。例えば、動画素材はこれまでテレビでしか放映できなかったが、今では動画サイトや電車内・駅などでも放映可能になった。選択肢が増えたことはもちろん利点だが、一方で組み合わせの複雑化をもたらしている。メディアを横断して、同じ素材を流しても構わないし、別素材を用意しても良く、判断に迷うケースが増えた。
動画広告はテレビCMと同じ素材か、別素材か
判断に迷うケースとして、特に多く見られるのは、テレビCMを他のメディアでもそのまま流してよいのか、専用のクリエイティブを作るべきか、というケースである。NRIで調査した2018年の事例を見てみると、図1のような結果が得られた。テレビCMと電車の車内ビジョンで同じ素材を放映していたケースは75.9%であり、テレビCMとWeb動画で同じ素材を放映していたケースはちょうど半分の50.0%であった。同じ素材を流すケースが過半数以上を占めている。
図1 テレビCMと同じ素材か別素材かの事例内訳(車内ビジョン・Web動画)
出所)NRIシングルソース調査(関東20~69歳、2018年事例より)
では、同じ素材と別素材を流した場合で、広告効果に差は見られるのだろうか。
テレビCMと車内ビジョン/Web動画において広告効果を比較してみる(図2)。すると、車内ビジョン/Web動画のどちらの場合でも、別素材の方が、広告効果が高くなる傾向が見られた。やはり同じ素材を使い回してしまうよりも、個別に専用のクリエイティブを用意する方が効果が高く出るようだ。
図2 購入意向TOP2の創出効果(テレビと同じ素材/別素材の場合で比較)
出所)NRIシングルソース調査(関東20~69歳、2018年事例より)
同じ素材を流しても成功するポイントは
傾向として差は出たが、もちろんメディアごとに個別に素材を用意した方が必ずうまくいくわけではない。メディアをまたがり同じ素材を放映した場合、別素材の場合、それぞれで成功・失敗のポイントがある。テレビCMとWeb動画を例に同じ素材を放映しても成功するポイントは何か、見てみよう。テレビCMとWeb動画で同じ素材を放映した場合に、Web動画の効果が高い事例・低い事例についてクリエイティブのスコアを比較してみると、効果が高いグループの傾向として、以下のことが分かった(図3)。
- テレビCMと同じ素材を放映する場合、Web動画の効果が高いグループではそもそもテレビCMによる効果が高い。テレビでは効果が低いがWebでは高いというケースは少ない。
- クリエイティブのインパクトやメッセージ伝達度(訴求メッセージの伝わりやすさ)が高い方が効果が高い。
- クリエイティブの情報量については、メッセージが絞られ情報量が少ない方が効果が高い。
図3 テレビと"同じ素材"でWeb動画の効果が高い事例と低い事例のスコア比較
つまり、Web動画はテレビCMと異なり、スマートフォンの小さい画面で接触することが多く、数秒でスキップも可能なため、よりインパクトがあり、内容がわかりやすく、情報量が絞られていないと生活者には伝わりづらいことが想定される。
以上のように、同じ素材を流す場合、別素材を流す場合、それぞれのケースで成功・失敗のポイントがある。
重要な点は、メディアごとにできることや広告接触の仕方、視聴シーンが違うことを踏まえた上で、どのメディアでどの素材を出稿するべきかを選ぶことである。Web動画では、スマートフォンからの接触が多く、テレビで見るよりも内容が伝わりづらいかもしれないが、テレビCMにはないターゲティング性能があり個別のターゲットへ素材の出し分けが可能なメリットもある。メディアごとに得意な点、苦手な点があるため、クロスメディアでのクリエイティブを考える際には、メディアの良さを十分に発揮できるクリエイティブかどうか、改めて検討すべきである。