2019年6月 1日

-マーケターが押さえておきたい効果的な広告の使い方- 【テレビでリーチしにくい層に有効なメディア】

テレビの視聴時間が減少していると言われているが、テレビでリーチしにくい層に対して、有効なメディアとしては、どのようなものがあるのだろうか。テレビの視聴時間の減少と反対に、Webの利用時間が拡大しているが、テレビの視聴時間が短い人の場合はWebの利用時間も短い傾向にあり、必ずしもテレビの代替としてWeb媒体が有効だとはいえない。今回は、テレビの視聴時間が短い人に絞って、他メディアの接触状況などを分析した結果を紹介する。

テレビの視聴時間が短い層ではWebでの番組配信の利用率は高い

テレビの視聴時間が平均して1日あたり30分未満の層を「テレビ低接触層」と定義して、これらの層が他のメディアにどのくらい接触しているのかを見てみよう。図1・図2では、Web関連のサービスの利用率について、生活者「全体」と「テレビ低接触層」を比較したものである。

テレビ低接触層の場合、見逃し配信などのサービスでは、AbemaTVやGYAO!、Paraviの利用率が高くなっている。テレビ受像機からテレビ番組をみることは少ないが、Web上でテレビ番組を視聴している可能性がある。一方で、amazonプライムビデオ(PV)やDAZNなどの有料サービスの利用率は生活者全体と同じレベルで、特に、テレビ低接触層で、これらのサービスの利用率が高いわけではない。

また、SNSの利用状況についてみた結果が図2となっている。テレビ低接触層の場合、Twitterの利用率は高いが、FacebookやInstagramなどの利用率は平均並みであり、特に利用率が高いわけではない。YouTubeやニコニコ動画の利用率は高く、Web上で動画を楽しんでいる可能性が高い。

以上より、テレビ低接触層の場合、AbemaTVやニコニコ動画などの一部の番組・動画配信のメディアの利用率は高くなっているが、その他のWebメディアの場合、生活者平均と比べた利用率の差は小さく、必ずしもテレビ低接触層はWebでリーチしやすいというわけではない。

図1 Webによる番組・映像配信サービスの利用率

000272_001.png出所)NRIアンケート調査(関東20~69歳、2018年8月~2109年3月実施)

図2 Webによる番組・映像配信サービスの利用率

000272_002.png出所)NRIアンケート調査(関東20~69歳、2018年8月~2109年3月実施)

活字媒体の場合は「dマガジン」、一部の交通広告も有効

同様に、新聞・雑誌について、テレビの低接触層の特徴をみてみよう。新聞の精読率(全国5紙を宅配でとっており、ちゃんと目を通している人の割合)をみると、テレビ低接触層の場合は低く、効率的な媒体ではない。

雑誌については、生活者の平均的な定期購読雑誌するが1.4誌に対して、テレビ低接触層の場合は0.6誌となっており、雑誌も効率的な媒体ではない。一方、Webにおいて有料で雑誌を読める「dマガジン」サービスの利用率は、テレビの低接触層で高くなっており、テレビでリーチしにくい層に対して効率的なメディアといえる。

図3 新聞・雑誌の接触

000272_003.png

出所)NRIアンケート調査(関東20~69歳、2018年10~12月実施)

次に、交通広告との接触可能性をみるために、電車の利用状況を集計した結果が図4である。テレビ低接触層の場合、JRの首都圏全線やメトロの利用率が高くなっており、これらの路線における出稿することで、テレビ低接触層における広告接触率を補完することができる。また、何らかの電車を利用している割合は、生活者全体の場合は54.9%であるのに対し、テレビ低接触層の場合は57.7%となっている。Web、雑誌、新聞などのメディアの場合は、生活者全体と比較して、テレビ低接触層のリーチは低いことが多かった。したがって、他メディアと比較すると、交通広告の場合は、総じて、テレビでリーチできない層に対してリーチを獲得しやすいメディアであるといえる。

図4 主要路線群の利用率

000272_004.png出所)NRIアンケート調査(関東20~69歳、2018年8月~2109年3月実施)

複数メディアを活用してリーチの最大化を

テレビの補完メディアとしてはWeb広告と考えがちではあるが、一部のWebメディアを除いては、必ずしもテレビ低接触層において、Webサービスの利用率が高いわけではない。すなわち、Web広告を出稿してもリーチを効率的に拡大できるわけではない。Webサービスが浸透するようになったことで、テレビの視聴時間が減少傾向にあることは間違いないが、テレビでリーチを獲得できない層に対する代替メディアとして、Web広告だけを想定することは危険である。

同様に、Web広告でリーチできない層も存在する。それらの層に対して、どのメディアでリーチを獲得すべきかを検討することも重要である。

今回の分析は、生活者の全般を対象に行なったが、自社のターゲット層において、テレビ低視聴層が接触しているメディアを明確にし、効率的なテレビの補完媒体を探すことが重要である。生活者のメディア利用状況は複雑になっており、今後は、メディア全体を活用して、ターゲット層に対するリーチの最大化を図ることが求められる。