2019年3月 1日
-マーケターが押さえておきたい効果的な広告の使い方- 【デジタル化時代のマス広告とリアル店舗】
2019年第二弾の「効果的な広告の使い方」は、デジタル化が進む中でのリアル店舗のあり方に注目した上で、マス、デジタル、店頭の3つの広告のあり方について提案していきたい。
スマートフォンの普及速度はやや鈍化するも、アクティビティの幅・深度は増加
NRIが生活者1万人を対象に3年毎に実施しているアンケート調査によれば、スマートフォンの普及率は2012年から2015年にかけての拡大幅が大きく、特に50代以下に一気に浸透した感がある。その後、2015年から2018年の3年間では高齢層を中心に普及率はさらに拡大するも、そのスピードはやや鈍化した。消費意識・行動の変化が特に敏感に表れる40代以下の若い世代では、2015年時点ですでに70%~80%台だった普及率が、2018年には90%から100%近くに達するなど飽和が見えてきている。
しかし、スマートフォンで実施しているアクティビティの種類・従事率を見ると、実は2015年から2018年にかけての変化の方が顕著である。2015年には動画の無料視聴やSNSの閲覧・投稿・メッセージのやり取りがスマホでよく従事されているアクティビティであるなど、やや暇つぶしとコミュニケーションに特化した使われ方がされていたが、2018年では「インターネットショッピング」や「商品の評価サイトの閲覧」、「ネットバンキング」がPCを上回って大きく伸びるなど、消費の分野における活用の拡大が顕著である。
図1 スマートフォンと携帯電話の性・年代別普及率(時系列推移)
出所)NRI「生活者1万人アンケート調査」(全国15~79歳、2012年、2015年、2018年)
デジタル化に逆行してシニア層では従来型マスメディア依存が進む
結果として、商品やサービス購入時の情報源も、デジタルに大きく寄ってくることになった。2012年から段階的に大きな拡大を見せているのが、「ネット上の売れ筋情報」、「評価サイトやブログ」である。これらのネット上の情報を取得している端末を見ると、「パソコン・タブレット」が2012年の13%から2018年には10%に減少しているのに対し、「スマートフォン」は4%から19%へと段階的に拡大している。
一方で、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などのマス媒体の情報参照率は2012年から2018年にかけては低下する傾向にあるが、よく見ると「テレビのコマーシャル」などは2015年から2018年には微増している。年代別の時系列変化では、実はシニア層ではテレビをはじめとする従来型マス媒体を情報源として利用する割合は直近に向けて増加しており、マス広告への回帰が見られる。スマートフォンが普及してきたとはいえ、その使用実態を見ると、シニア層ではまだメール・メッセージの送受信や地図情報の利用に特化した使われ方をしている。広告や情報がデジタルシフトする中で、ややその流れから遅れたシニア層では、「やはりマス媒体でよいとされているものが安心」と信頼を寄せる側面があることがうかがえるのである。
図2 商品やサービスを購入する際に利用する情報源の推移(複数回答)
出所)NRI「生活者1万人アンケート調査」(全国15~79歳、2012年、2015年、2018年)
もう一点注目されるのが、「店舗の陳列商品・表示情報」、「販売員などの意見」などリアル店舗の情報参照が減っていないことである。デジタル化が進み、スマートフォンでよりシンプルなネット情報の取得が行われるようになる一方で、見て、触って、といった五感での商品判断や店舗での買い物行動自体のエンターテインメント性、販売員の顔を見てのお勧めなどは依然として重視度が高いということになる。実際、インターネット通販が大きく拡大する一方で、リアル店舗の利用率については減少が見られず、むしろショッピングモールなどのエンターテインメント性の高いチャネルでは増加する傾向すら見られるのである。
店頭では商品・サービスとの「新しい出会い」を意識した広告を
リアル店舗における買い物意識・行動の変化を直近2回の調査で見てみると、「買い物に出かける前に、購入する商品を決定している」などの計画購買がリアル店舗で行われる割合は、わずかながら減少している。一方で、「お店行った時に、ついでに当初は買うつもりがなかったものを買う」は、この3年で顕著に増加している。これは、計画購買であれば利便性の高いネットチャネルへ流れ、リアルチャネルに期待するのは買い物自体のエンターテインメント性や新しい商品・サービスとの出会いであることの現れである。
一方、「スマホ等で店頭でも情報を確認」も大きく伸びており、「店頭で新しい商品を見つけて興味を持ち、その情報をスマホで調べる」といった行動の拡大が顕著である。リアル店舗においては、店頭展示やPOP等で「新しい出会い」を意識した広告で目をひき、そこからスマホによる情報検索にスムーズに移行させ、離脱を少なくする。そのような、デジタル化時代における消費者のリアル店舗とデジタル情報の使い分け意識に着目した広告活用が求められる。
図3 店舗利用における意識・行動の時系列変化
出所)NRI「生活者1万人アンケート調査」(全国15~79歳、2015年、2018年)