2022年7月13日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」
コロナ禍で変容した、"お得感だけではなびかない"消費者のお店選び
間違いなく、コロナに対する不安感がリアル店舗への来店頻度を減退させていた
コロナ禍によって消費者のまとめ買い傾向が上がったと言われるが、今からちょうど1年前に大手小売りチェーンの担当者と意見交換をしていた際、このまとめ買い傾向について、消費者は遠くのお店に行くよりも自宅近くのお店でさっと買い物を済ますようになったのでは、と仮説が立てられ、インサイトシグナル調査により確かめたことがあった。
図1は2021年5月に調査した結果であるが、日用品の買い物におけるコロナ禍以前と比較した移動距離の変化を調べたものである。1年前の結果では、コロナに対して不安感がある人ほどより近くのお店を利用するようになったと回答しており、コロナ不安が買い物のために消費者が出回る気持ちを抑制させていたことは明らかであった。
図1:コロナ以前と比較した買い物移動距離の変化
(コロナ不安感別、2021年5月調査)
コロナに対する不安感は薄れても、近場で買い物をする傾向は変わらず定着
それから1年が経ち、2022年5月において、コロナに対する不安感の程度と日用品の買い物における移動距離について再度調査を行った。結果としては、コロナに対する不安感は1年前よりも下がっている(図2)のだが、日用品購入におけるお店への移動距離は増えておらず、むしろ自宅から1km圏以内の店利用が増加した(図3)。おそらく、自宅から最も近いお店の利用が定着したと想定され、消費者においては様々なお店の使い分けが減っていることが示唆される。チラシなどを見て、お肉はこっちのお店で、野菜はあっちのお店で...といったように、お得なお店を調べて回るといった買い物シーンは、コロナ禍以前よりも少なくなっているのではないか。
図2:コロナに対する不安感の変化
図3:日用品購入におけるお店の場所(自宅からの距離)の変化(複数回答)
NRIの別の調査結果(※)であるが、Tポイントなどの共通ポイントの普及に伴い、消費者のポイント付与の有無による店舗選択の優位性が薄れていることが指摘されている。つまり今やどの店舗でもポイント制度を導入していることから、消費者心理としても、どこでもポイントが溜められるなら(コロナ感染も怖いし、)近くのお店で買い物を済ませてしまおうと考えたのではないか。ポイント付与も含め、お得感だけでは消費者の心を掴むことはできなくなっている。
日常利用チャネルにおいても"顧客体験価値"向上はリアル店舗のキーワードになっている。「近くのお店だから」という理由ではない、「遠くのお店でも」利用してもらえる動機付けを真剣に検討しなければ、いよいよ取り残されてしまうだろう。
※第327回NRIメディアフォーラム(https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/mediaforum/forum327)
出所)NRI インサイトシグナル シングルソースデータ
NRI 林裕之 シニアアソシエイトマーケティングサイエンスコンサルティング部