2022年3月16日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」
差し迫るCookielessがもたらすマーケティング戦略の変化
CookieというWeb技術をご存じだろうか。Cookieとは、Webサイトのアクセス履歴を判別するためにひそかに埋め込む"すかし"のような技術である。昨今、個人情報保護の観点から法律により、Cookie活用が制限されるようになった。また、AppleやGoogleなども自主規制を強化しており、2023年後半にはCookieless時代が到来すると言われている。
日本のデジタルマーケティングにおけるCookie活用
Cookieless環境下では、ユーザー追跡がしにくくなるため、ネット広告の効果測定や追跡型広告の配信効率の精度低下が懸念されている。特に追跡型広告は、購入意向の高いユーザーを狙い撃ちでき、高い効果を見込める。日本のデジタルマーケティングでは、Cookieの技術を活用した広告手法を駆使し、いかにサイト流入人数やその後のコンバージョン(購入)数を効率的に増やすかが重視されてきた。報道によると、2020年の日本の年間ネット広告費2兆2千億円のうち、追跡型広告は1兆円を占めると言われており、ネット広告費の配分に大きな影響が見込まれる(出所2021年7月29日 日本経済新聞朝刊1ページ「追跡型広告 見直し機運」)。
図1:Cookielessによってできなくなること
Cookielessがもたらすマーケティング戦略の変化
では、Cookieless環境下では、デジタルマーケティングはどのように変化するのか、図2を見てみよう。マーケティング戦略上重要なのは、Cookielessが進展することで、情報を取得できる「境目」が変わることだ。従来では自社サイト訪問時にCookieによって見込み顧客の情報を取得し、追跡型広告で購入につなげ、顧客化するという戦略が多く用いられてきた。しかし、Cookielessが進展すると、顧客の情報を取得できる「境目」が大きく後退してしまう。
図2:Cookielessがもたらすマーケティング戦略の変化
メールアドレス等はサイト閲覧のみで取得できるCookieよりもハードルが高く、取得できる数が減るだろう。つまり、今まで見込み顧客としてとらえられていたユーザーが減少し、一般消費者としてしかとらえられなくなる。Cookielessになると、従来より一般消費者向けの広告の重要性が増すことが想定される。Cookieの代わりに、自社の顧客から得た情報をいかに一般消費者向けの広告に活用できるかが鍵になるだろう。
Cookielessは、これまでCookieの恩恵で可視化され、効率化されてきたネット広告の効率を一挙に悪化させてしまう懸念があり、デジタル広告やデジタルマーケティング部門のみで解決できる問題ではない。Cookieless環境下においては、組織を横断したマーケティング戦略の必要性はますます重要なってくるだろう。
NRI マーケティングサイエンスコンサルティング部 コンサルタント 田中 渚子