2020年11月13日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」
風邪をひきにくい時代に売れるのは、即効性のある風邪薬
コロナ禍で「風邪をひきやすい」悩みを持つ割合は激減
新型コロナウイルスがもたらしたのは、感染症による直接的な健康被害だけではない。感染予防のための外出自粛を筆頭に、私たちはこれまでの生活様式・行動様式を大きく変えることを余儀なくされてきた。こうしたライフスタイルの変化は私たちの身体や健康にも変調を及ぼしており、これもまたコロナの間接的な功罪と言えるだろう。
図表1 健康上の悩みの保有者の対昨年伸長率
図表1は、生活者の健康上の悩みが、コロナ前後でどのように増減したかを示したグラフである。これを見ると、「肌荒れ」「胃もたれ・胸やけ」の悩みを持つ人がコロナ前よりも増加していることがわかる。 「肌荒れ」は感染症予防のためマスクの着用時間が増加したことによるもの、いわゆる「マスク荒れ」が要因であろう。 「胃もたれ・胸やけ」の要因としては、外出自粛や感染への不安などからくるストレスや、コンフォートフードの消費増加(Vol.1のレポートを参照)など食生活の乱れが考えられる。
一方で、大きく減少しているのが「風邪をひきやすい」という悩みの保有者だ。2020年9月には、国内のインフルエンザの感染者数が前年同期の1千分の1以下に留まったというニュースもあったが、新型コロナウイルス対策で生活者の衛生意識が高まり、マスク着用など感染予防行動が定着した結果、通常の風邪やインフルエンザにかかる人も減ったとみられる。生活者の意識レベルでも、風邪をひきにくくなったと実感されていることがこのグラフからわかる。
「即効性」のイメージがある風邪薬は、コロナ期でも購入意向がアップ
そんな状況で思わぬ煽りを受けるのが医薬品業界だ。風邪が減るのは社会にとって(もちろん製薬会社の皆様にとっても)喜ばしいことだが、風邪をひきにくい時代にどう風邪薬を売るかは、マーケターの腕の見せ所でもある。
図表2 風邪薬に対する保有イメージ別の購入意向
図表2は、ある風邪薬の購入意向を、商品イメージの保有者別に算出したものである。この値が大きいほど、そのイメージが購入意向に寄与していると考えられる。これを、コロナ前後の二地点で比較した。
季節の影響もあり、全体的に風邪薬の購入意向は下がっているが、「即効性」のイメージ保有者だけは意向が高まっている。その理由として、コロナ期では、万一風邪をひいてしまった場合、市販薬を使って早期に症状を抑え込みたいという意識が強くなったことが考えられる。風邪がひどくなったら病院に行かざるを得ないが、コロナへの二次感染も怖いので、極力その前に何とかしたい。そんな潜在意識に訴えかけることで、風邪薬の購入意向を高めていける可能性がある。
コロナ期における医薬品のマーケティングで意識すべきは、コロナウイルスへの直接的な対策だけではない。行動や意識の変化など、生活者への間接的な影響も踏まえてメッセージや施策を検討することが重要である。
出所)NRI インサイトシグナル シングルソースパネルデータ
NRI マーケティングサイエンスコンサルティング部 白井雄志 主任コンサルタント