養命酒製造株式会社 様

超ロングセラー『薬用養命酒』の殻を打ち破る、新たなコミュニケーション戦略の武器

養命酒製造株式会社

事業内容
薬用養命酒をはじめとした酒類、医薬品等の製造、販売
創業
1923(大正12)年
導入ソリューション
薬用養命酒の広告効果測定
導入部門
マーケティング部

誰もが知る超ロングセラー商品「薬用養命酒」を核として、「生活者の信頼に応え、豊かな健康生活に貢献する」ことを目指して事業を展開する養命酒製造株式会社。同社では、2011年秋から「薬用養命酒」の広告プロモーションの効果検証にインサイトシグナルを導入。以来4年半にわたって継続してPDCAサイクルを回しながら、事業の精度を向上させ続けています。

事例概要

お客様の課題
  • クリエイティブを変えてテレビCMを出稿すれば成果が出るという過去の成功事例に引きずられていた。
  • 消費者ハガキなど、広告効果検証データに偏りがあった。
導入の決め手
  • シングルソースによる客観的な広告検証データの把握が期待できる。
導入までの流れ
  • いくつかの調査方法の中から検討のうえで選定。2011年秋から導入。
導入後の効果
  • 期待どおりの客観的なデータが得られ、精度の高い効果検証が可能となった。
  • マス媒体中心の出稿から、費用対効果を意識したメディア選定が可能となり、徐々にクロスメディア戦略へと移行。

課題と背景

あらゆる調査で非常に高い認知度を誇り、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう「薬用養命酒」。その歴史は古く、1602年にまでルーツがさかのぼれるといいます。この超ロングセラー・ベストセラー商品を製造、販売する養命酒製造株式会社は、その強い商品力に安住することなく、革新的な姿勢を持ち続けている独創的な企業です。

同社の中期経営計画(平成27年4月~平成30年3月)では、「ポジティブエイジングケアカンパニーとして、健やかに、美しく、歳を美しく重ねることに貢献する」という事業ビジョンと、「持続的成長に向けた新規事業領域の確立」という基本方針が打ち出され、薬用養命酒にとどまらない新規商品の開発や、同社のルーツである信州で地場の特産品や工芸品を集めて高い人気を誇る複合施設「くらすわ」の運営など、新規事業領域への進出も積極的です。

そうした新たな事業への取り組みを支えるのが、同社の基幹商品である薬用養命酒です。養命酒は生薬を配合した滋養強壮の効能を持つ薬用酒として知られていますが、近年では息の長い商品であるがゆえの課題も増えてきていました。

お客様に根強くある、「高齢者向け」のイメージを払拭したい

「私たちはターゲットを高齢者の方に限定していませんし、そうしたメッセージも発信していないのですが、やはり薬用養命酒と聞くと、滋養強壮の薬用酒という特長から『高齢者のためのもの』とイメージされる方が多いのです。以前は『お父さん、お母さんが、息子や娘に“体が丈夫になるよ”と養命酒を勧める』というクチコミの原点のようなかたちで、年代に関わらず親から子へと家庭内で養命酒を伝えていただいた流れもあり、若い世代に効能を理解していただく機会も多くあったのですが、核家族化が進んだことでその流れも希薄になりつつあるようです。そのため、高齢者ためのものというイメージが強く印象づいているのかもしれません」と同社取締役でマーケティング部長の丸山明彦氏は分析します。

商品の購買層が高齢層に偏ってしまえば、ビジネスの将来は先細ってしまいます。そこで、若い世代層の取り込みと新規顧客の獲得が重要な課題となってきているのです。

薬用養命酒は、古くから広告宣伝活動を重視してきています。とくに昭和40年代からはテレビ放送の成長とともに、テレビCMをプロモーションの中心としてきました。一時は提供番組が週に8つを数えたといいます。

「以前の弊社では、広告宣伝とはテレビCMのことであり、その成否が売り上げという成果に直結している、という考え方が根強くありました。販売が伸び悩んだ際には、クリエイティブを変えたり、出稿量を増やしたりという改善をするだけで、売り上げ回復につながったということも多かったのです。逆にいうと、売り上げが伸びない場合は『クリエイティブが悪い、出稿量が少ない』という判断になりがちでした」と同社マーケティング部参事の渡来正氏は振り返ります。

これまでも、出稿の効率化を目指したことはありましたが、テレビCMの効果を予測して出稿することは難しかったといいます。たとえば、テレビCMをスポットで大量に投下すると、その直後は販売に効果があるものの、2~3カ月後には谷間ができ、半年、1年のスパンで見ると結局前年比ダウンしていたこともありました。また、販売に影響を与えることを期待して地域ごとに出稿量を変えたにもかかわらず、結果はどちらも前年とほぼ同じ売り上げだった、ということもあったといいます。

さらに、顧客の購買意識にどう影響しているかという観点でみれば、テレビCMが既存ユーザーの継続購入に影響しているのか、新規ユーザーの獲得に繋がっているのか、それまでの調査では全く分析できていない、という大きな課題もありました。

一方でテレビCM以外の取り組みでは、商品に同封された消費者ハガキによるアンケートの回収、お客様相談室への問い合わせ内容の分析、新聞広告の資料請求反応などによる調査検証も行っていましたが、その精度にも課題がありました。

「とくに消費者ハガキは検証データとして重要視していたのですが、年齢層を見ると60代~80代がほとんどでした。実際の飲用者数の調査では、60代以上と50代以下が半々だったのに対し、消費者ハガキは高齢者に偏っていて、そもそも検証をする母体として適切かどうか疑問があったのです」(渡来氏)

こうした課題を抱えていた同社は、より科学的にデータを分析する手段を検討します。そして、幾つかの候補の検討を経て、2011年秋からインサイトシグナルによる効果測定を導入しました。

「インサイトシグナルを導入したのは、とにかく客観的に検証したいということが一番でした。生活者全体の反応が把握できることはもちろん、シングルソースデータによる調査のため検証結果に対する信頼性が高く、また分析手法も分かりやすいことが決め手でした」(丸山氏)

成果

インサイトシグナル導入から4年半が経過した現在までに、調査回数は16回を数えており、薬用養命酒の広告成果については長期的なデータが蓄積されています。

メディアごとの効果測定では、プロモーション期間の事前と事後では、認知度、購入意向、実購入の変化を、インサイトシグナルの「差分の差分」という考え方を用いながら、細かく検証しています。

また、顧客の属性という切り口からは、性別・年代別はもちろん、新規、継続、過去飲用といった飲用状況、気になっている症状、健康に関する考え方や日常の行動パターンなどからも多くのデータを蓄積しているといいます。

こうしたデータの取得と分析によって、プロモーション展開の効果とともに、深い顧客理解も進むようになり、次の展開を考える際の精度が向上してきているといいます。実際に、特定のセグメント層において狙い通りに新規ユーザーが獲得できていたり、時節的に広告宣伝費を抑制したい時期であっても、プロモーション展開を柔軟にすることで売り上げを維持できていたり、という実績を挙げることができています。

これまで見えなかった新規ユーザーの動向を把握できるようになりました

「たとえば『初めて薬用養命酒に購入意向を持った人』というセグメントで切り出してみれば、どのメディアに接触したのか、どのクリエイティブの何のメッセージに反応したのか、といった深い視点での分析ができます。それまでわからなかった新規ユーザーに対する各メディアの効果検証などによって、顧客の意識変化やメディアの特性まで、客観的に把握できるようになりました。長期的な調査のおかげで、データの信頼性、精度もますます高まってきています」(渡来氏)と、導入の成果は確実に現れているといいます。

また、インサイトシグナルの客観的なデータは、同社の広告プロモーションにおけるPDCAを支えるベースとなり、テレビCMのみのメディア戦略だけでなく、他の媒体をいかに有効に利用するか、といったプロモーションへも活用されるようになってきています。

「まずはリーチの改善です。商品の認知率が高いため、これまであまり意識せず出稿計画を立てていましたが、電車内のステッカーやトレインチャネルを利用すると、これまで接触機会のなかった30代、40代にもリーチすることができ、かなり反響がありました。また、雑誌広告や映画館でのシネアドなども好評です。これまではテレビ、新聞に接触するユーザーにしか届いていなかったのが、ほかのメディアでもリーチは可能だということがインサイトシグナルの導入で分かりました」(丸山氏)

さらに、リーチだけでなく、クリエイティブの改善への活用も行われているといいます。薬用養命酒の効能の一つに「冷え性」の改善がありますが、どのようなシーンや部位がユーザーに訴求効果が高いかをより詳細に調査したところ、季節は“冬”、時間は“寝る前”、部位は“手足”というキーワードが抽出されました。それをクリエイティブに落とし込み、訴求内容を絞り込んでいったところ、養命酒の認知度も一層高まったのです。

「薬用養命酒には7つの効能があるのですが、かつて社内ではそれを全部伝えるべきという信念に近いものがあり、それではかえってお客様に伝わらないのではないか、という懸念がありました。インサイトシグナルは多数のメディアでの客観的な効果検証が可能なため、ターゲットを絞ったダイレクトなメッセージを持つプロモーションをさまざまなメディアを使ってチャレンジする、といった取り組みも行なうようになりました。その結果、媒体ごとに何のメッセージをこめればよいのか、といった傾向もつかめるようになってきています」(丸山氏)

活用方法

インサイトシグナルの結果については、調査ごとに報告会を実施。薬用養命酒の広告・プロモーションに関係する担当者、お客様相談室の関係者をはじめ、15名ほどが出席するといいます。場合によっては広告代理店、CM制作会社の担当者にも出席を依頼し、スピーディーな情報共有と共通認識の形成を図っています。

「弊社ではID-POSデータも利用していますし、出席者は当然売り上げについても分かっています。でも、なぜそういう結果になったのかが明確になっていない。インサイトシグナルの報告を聞いて、クリエイティブがどう結果に影響を与えたのかも評価検証し、原因と結果を合致させるという取り組みを続けることで、関係者全員の意識向上が進んでいます」(丸山氏)

新たなチャレンジを恐れず、社内の意識が前向きに変わってきました

近年、同社では薬用養命酒のプロモーションの一環として、Webを中心としたプレゼントキャンペーンを実施しています。「ゴルゴ13×養命酒 アタッシュケースプレゼントキャンペーン」や「養命酒オリジナル『コップのフチ子+(プラス)』温もりのお着替えセットが当たるフチ子と冷え対策キャンペーン」に続き、2016年夏には養命酒デザインのモバイルバッテリーが当たる「夏バテにYomeishuモバイルキャンペーン」が、話題を集めています。

「最初の『ゴルゴ13』のときは、経営会議で『スナイパーに広告させるのか』と役員に反対されたんです(笑)。古い会社ですから、どちらかといえば保守的な姿勢であったのが、新しい層へのリーチが得られることがわかった今では、経営陣も『今度は何をやるんだ』と、意識が変わってきました。新しいチャレンジに対して前向きに変わってきたのです」(丸山氏)

「Webでのキャンペーンは、これまで接触することのなかった20代、30代の人たちにも届いています。こうしたキャンペーンを開始してから、TwitterをはじめとしたSNSのデータを分析すると、3年ほど前は養命酒に関する投稿は月8000件くらいだったのが、現在は月2万件くらいと確実に増えています」(渡来氏)

さらに、インターネットによる「話題喚起」だけでなく、「実購入」に至らせるためには、イベントやセミナーも効果があることが調査結果から発見できたといいます。

「その結果を受けて、ヨガ教室、料理教室とのタイアップや駒ヶ根工場内の『健康の森』でのイベントなど、幅広いプロモーション活動を心がけています」(丸山氏)

インサイトシグナルの導入により、広告戦略のPDCAが回り始めるとともに、同社では過去に蓄積した膨大なデータを活用し、広告効果のシミュレーションモデルも構築しています。つまり、どのメディアにどの程度の費用をかけると、どの程度のリターンが得られるのかをあらかじめ推計できるようになり、その情報は社内にも共有されているのです。これが広告宣伝や営業マーケティングに携わるメンバーにとって、頼もしい武器となっていることは言うまでもありません。

展望

市場拡大を阻む障壁をポジティブイメージで打開したい

こうして改善を続ける薬用養命酒の広告宣伝活動ですが、今後の業績拡大を阻む要因として2つの障壁が考えられるといいます。

その一つは直接の購買に繋がる「実購買メディア」をどのように攻略するか、という壁であり、もう一つは「ブランドイメージ」という壁の存在です。

「『実購買メディア』と呼ばれるインターネットのクチコミ、評判・評価が、購入への最後のひと押しに重要な役割を担っていることがわかっています。今後ますます重要になるこのメディアで、これまで進めてきた顧客理解を活かしながら、その最後の一押しをどう展開していくかが課題です」と渡来氏は言い、これまで蓄積してきた訴求効果の高いキーワードやメッセージなどをクリエイティブに反映させながら、継続して取り組みの改善を続けていくと意気込みを見せます。

また、後者のブランドイメージについては、「自分向けの商品ではない」と感じてしまっている潜在層がまだまだ多い、と認識されています。従来のイメージの脱却は今後一層重要になってくる、と丸山氏は将来の展望を語ります。

「旧来の養命酒のイメージを超えて、“明るく、楽しい”“元気、健康”といったポジティブイメージを、マス広告、Webサイト、CSR、企業活動を含め、さまざまな生活者との接点で大きく描き切る必要があると考えています」(丸山氏)。

丸山氏は、次のように締めくくります。「仮に、チャレンジして失敗したとしても、それは大きな問題ではありません。失敗した結果を分析し、原因を究明することができれば、むしろ大きな経験を積むことができたとも言えるのです。インサイトシグナルについてはデータをいただくだけでなく、分析結果に対するNRIならではの考察や知見について期待しているところが大きいですね。そうした部分が、次へのチャレンジにつながるものであり、弊社にとって価値あるものだと考えています」。

チャレンジと結果の分析すべてが経験として活かせる

担当コンサルタントのコメント

「養命酒」というと、伝統的とか、従来型といったイメージを、商品とともに広告戦略にも持たれる方がいらっしゃるかと思いますが、実態は全く違います。他社ではなかなか実行まで至らないような斬新でユニークな施策を次々打ち出しています。毎回、次はどんな施策を展開するのだろう、と我々も楽しみにしています。とともに、感銘を受けるのは、決してやりっぱなしにせず、ひとつひとつ検証し、PDCAをまわしている点です。しっかりデータを読み解き、原因の究明と次回への示唆を関係者全員で共有することで、広告戦略がスムースかつ大胆に実行できている、よい運用形態であると感じています。
新しいことへのチャレンジし続けること、その推進にシングルソースデータがお役に立てればと、これからも切に願っております。(松本崇雄)

関連情報

養命酒製造株式会社

設立
1923(大正12)年
資本金
16億5,000万円
年間売上
127億円(平成28年3月期)
事業内容
薬用養命酒をはじめとした酒類、医薬品等の製造、販売