2019年12月 1日

-マーケターが押さえておきたい効果的な広告の使い方- 【顧客ステップ別コンバージョン分析による注力ポイントの検討】

名称を認知し、商品の特徴を知り、興味・関心を持ち、購入の検討に至り、実際の購入へつながる......という、模式化された顧客の行動の流れ(顧客ステップ)を用いた分析は、AIDMAのフレームワークに代表されるようにマーケティング分野においては定番化した手法となっている。

このようなフレームワークはどの業界においてもある程度共通して適用できるよう生み出されたものであるが、一方で実際に顧客が購買行動の中で踏むステップというものは、業界(商品の属するカテゴリ)によっても異なっている。たとえば食品や飲料といった商品とは異なり、保険などの金融商品は想起の順序や検討候補には入るかどうかといったステップも見るべきであろうし、不動産やインフラといった商品は特定のイメージの醸成、好感度の向上といったステップも検討対象になるだろう。

今回は、顧客ステップごとのコンバージョン率(CV率)を用いた分析方法と、弊社が有する顧客ステップデータを用いた複数業界におけるCV率を紹介する。

顧客ステップ別のコンバージョン率の考え方

上述の通り、本来的には顧客ステップは各商品カテゴリ、ひいては各社ごとに作成されるものであるが、そのとっかかりとなるであろう一つの観点は、「結局実際の購入につながっている顧客行動は何か?」というものである。広告施策が実行される前の顧客ステップ(事前)と、実行された後の顧客ステップ(事後)を見比べ、「事前の顧客ステップごとに、購買までたどり着いた消費者はどれくらいいたか?」を算出した「CV率」を用いることで、どの顧客ステップまでたどり着いていると購買につながりやすいのかを把握することができる。なお、弊社が有する顧客ステップデータはシングルソースデータと呼ばれるもので、回答者を一定期間拘束して回答をお願いするタイプのものであり、ここでの「事前」「事後」はいずれも同一の回答者に尋ねてその変化を分析している。

図1のイメージ図でいえば、事前の段階で「名称認知」にとどまっていた消費者(名前は知っているが、興味・関心や購買意向を持っていない人)が事後の段階で商品購入に至る割合は5%だが、「購入意向TOP1(「とても購入したい」と感じていた人)」の場合は35%まで上昇する、ということになる。更に、「興味・関心」から「購入意向TOP2(とても購入したい/やや購入したい)」に移行することで、CV率が7%から20%に上昇することが見て取れる。この場合は、単なる興味・関心から実際に「欲しい」と感じさせるための施策が、コンバージョンの上では重要、と解釈できるだろう。つまり、この考え方で整理することで「CV率の高いステップ(目指すべきステップ)」と「CV率上昇のために重要なステップ」という2つの観点から、KPIの選定や購買行動の分析を行うことが可能となる。

図1 顧客ステップ別のCV率の考え方(数値はイメージ)

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実例:金融(生命保険)業界におけるCV率分析

では、弊社が実際に保有する複数商品における分析結果を以下に紹介する。図2は金融(生命保険)業界における顧客ステップ別のCV率をグラフ化したもので、各ステップから加入に至った人の割合をパーセンテージで示している。

まず着目すべきは強調している通り、検討候補(購入を検討する候補の一つ)から検討第一候補(購入を検討する第一候補)にかけて、CV率が倍以上になっている点であろう。これは、広告出稿前の段階で検討候補の絞り込みが済んでいる人に対しては、加入に向けて背中を押す効果が絞り込み前の段階にいる人よりも高い、ということを示している。理由としては、生命保険という商品は基本的には一人ひとつしか入らないこと、また選定に一定以上の知識が必要であり、購入頻度も消費財等と比較して非常に少ないものであるため意思決定までに時間がかかってしまうということが挙げられるだろう。

このような分析を行うことで、有効なKPIを選定したり、また広告の目的次第にはなるが、加入者の増加を直接的にねらうのであれば(あくまで一例ではあるものの)絞り込みの決め手になるような情報を提示するようなクリエイティブを検討するなど、実際の施策にもつながる示唆を得ることが可能になる。

図2 金融(生命保険)業界における顧客ステップ別のCV率

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商品カテゴリに適したKPI設定とCV率分析のあり方

図3は、図2で分析したのと同様の手法を他の商品カテゴリに対しても適用した結果を示したものである。前述の通り、商品カテゴリごとに設定すべき顧客ステップが異なることから一律の比較は行えないものの、それぞれのカテゴリにおいて様々な示唆が読み取れる。

たとえば化粧品カテゴリにおいては、購入意向TOP2からTOP1にかけてCV率の違いが顕著となっており、消費者目線では「ゆるやかな購入意向」と「強い購入意向」に明確な違いがあることがわかる。自分に合ったものを選びたいという思いや効果・効能の理解が重要という意味では、医薬品も近い傾向が見て取れる。

定量的に計測可能な形でマーケティング施策を実施するうえで重要なポイントの一つはKPIの選定であり、選定基準の一つは売上への寄与度であろう。CV率の高いKPIをメインKPIとし、メインKPIへのコンバージョンの高いKPIをサブKPIとするなどの手段を用いれば、複数の指標を構造化して把握することも可能となる。デジタル時代において、このような分析手法の重要性はますます高まっていくものと考えられる。

図3 顧客ステップ別のCV率の商品カテゴリ別比較

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