2019年5月 1日
-マーケターが押さえておきたい効果的な広告の使い方- 【インプレッション単価を意識したテレビCMとWeb動画広告の活用】
今回は、最近問い合わせの多い、テレビCMとWeb動画広告の組合せ・使い分けについて紹介する。読者の方々も出稿メディアの検討の際に、テレビCMとWeb動画広告の出稿比率をどうするべきか、ターゲットを考えると、Web動画広告のみにした方がよいのではないのかというような議論をよくされているのではないだろうか。広告主の方々と話をすると「Web動画広告の方がコスト効率がよい」と感じている方が多い印象がある。しかし、実際は、ケースによりどちらが効率的かは異なる。
今回は、どのようなケースだと、テレビCMの方が効率的か、もしくはWeb動画広告の方が効率的かを、「広告接触総数(Web広告でいうインプレッション数)」という観点で分析する。
テレビCMの1インプレッションの単価は?
コミュニケーションのプランニング業務の中で、テレビCMとWeb広告の出稿量の単位が異なり比較しにくいと感じる事があるのではないだろうか。そこで、まずは、テレビCMの出稿量の単位をWeb広告の出稿量の単位であるインプレッション(以下、imp)に換算することで、出稿量の単位を合わせてみる。
図表1は、関東において世帯GRP1%のテレビCMを1回放送した時に、広告がリーチする人数の理論値である。実際には、放送される時間帯や番組により、1世帯あたりの視聴人数や視聴者属性が変わるため、理論値からは乖離していくが、理論上は関東世帯1GRPは約20万impである事がわかる。仮に世帯1GRPの単価が10万円だとすると、imp単価は0.5円となる。
図表1.世帯視聴率1%のテレビCMの広告到達人数
※上記は計算を簡略化するために、端数を省略した人口、換算値で計算しているため実際の値とは若干異なる
やや余談となるが、同じ計算方法で、関東の世帯1,000GRPをインプレッション換算すると、2億impとなる。テレビCMを世帯1,000GRP、Web動画広告を数百万imp程度という組み合わせで出稿する企業も多いと思うが、この場合、Web動画広告のimp比率は数%程度しかない。
ターゲットの広さによりimp単価は変わる
上記のテレビCMのimp単価は、あくまでも生活者全体をコミュニケーションターゲットにした場合のものである。実際には、生活者全体ではなく、例えば、20−30代女性といったようにコミュニケーションターゲットを設定することが多い。コミュニケーションターゲットへのリーチのみで広告の効率性を評価することにした場合、テレビCMのimp単価はどの程度になるだろうか。図表2は、全日で出稿した場合の性年代別のimp単価である。なお、この計算は、図表1のような理論式のみではできないため、インサイトシグナル調査のメディア接触データを利用した、メディアシミュレーターにより算出している。
10-60代男女をターゲットとすると、単価は約0.5円であるのに対し、30-40代男女では1円を超えている。このように、ターゲットを絞るほど単価が高くなることがわかる。年代でみると、10~30代では若いほど単価が高いことがわかる。これは、若年層の方が、高年代よりも人口構成比が低いためと、テレビ視聴時間が短い人が多いためである。20-30代の男性と女性で比較すると男性の単価の方が高い。これも男性の方がテレビ視聴時間が短いためである。
なお、この結果は、全日でのシミュレーション結果であり、若年層や有職者にリーチしやすい逆Lや深夜などを中心に出稿すれば、単価はこれよりも安くなる。
図表2 世帯1000GRP出稿した場合の各ターゲットのimp単価
(世帯GRP単価を10万円とした場合)
出所)NRI InsightSignal メディアシミュレーター
どのような時にテレビCMの方が、Web動画広告よりも単価が低いのか
上記のことがわかると、「では、自社のケースでは、どちらの方が安いのか?」が気になるのではないだろうか。これを明らかにするためは、現在のテレビCMのGRP単価や、コミュニケーションターゲットを考慮する必要がある。
図表3は、性年代で設定した4つのターゲットそれぞれにおいて、テレビCMのGRP単価を先述の結果を利用してimp単価に換算したものである。例えば、20-30代においては、テレビのGRP単価が10万円の場合、imp単価は4.5円程度となる。自社のGRP単価とコミュニケーションターゲットをもとに、図表3を使いテレビCMのimp単価を把握し、Web動画広告のimp単価を比べることで、どちらの単価が低いかを簡易的に把握することができる。
図表3 各ターゲット別のGRP単価を換算し求めたimp単価
(世帯1000GRP、全日の場合)
出所)NRI InsightSignal メディアシミュレーター
今回の分析では、imp単価という側面でテレビCMとWeb動画広告の比較を行った。実際には、広告が1回接触したときの、テレビCMの効果とWeb動画広告の効果の違いを把握し、各メディアの限界リーチも考慮してメディアアロケーションを検討する必要があるが、まずは、このimp単価を考慮してテレビCMとWeb動画広告の組合せ・使い分けを検討することがよいのではないだろうか。