2017年11月16日
-広告効果測定の最新事情-クロスメディア・プレミアム
「クロスメディア」という言葉を、多くの人が一度は耳にしているだろう。一般的に、テレビ、雑誌、新聞、インターネットなど複数の媒体を利用して広告を出稿することを示す言葉である。
広告媒体の複数接触で得られる相乗効果
広告出稿でクロスメディアを狙う目的は主に2つある。1つ目は、生活者へのリーチ量を増やすことである。図1の左図はテレビ、雑誌、バナーの3つのメディアに出稿した場合のリーチの重なりを示している。この例でみると、テレビCMのみの出稿では、全体の4割程しかリーチできないが、雑誌広告とバナー広告にも同時に出稿することで、52.5%までリーチを拡大できる。テレビの視聴率が下がっている昨今、テレビCMのみの出稿でリーチできる人々は減少傾向にあり、クロスメディアによってリーチを拡大する重要性は高まっている。
2つ目は、生活者に複数箇所で広告に接触させることで、広告の効果を高めることである。図1の右図は、各メディアに接触した場合の購入意向の変化とその差分を記載している。テレビCMにしか接触しなかった人と、テレビCMと雑誌広告の2媒体に接触した人では、後者の方が単に広告が記憶に残りやすいだけでなく、複数接触による相乗効果が得られることが期待できる。加えて、バナー広告にも接触すれば、その効果はさらに高まる可能性がある。
このように、複数のメディアに接触した場合に、単体のメディアで接触するよりも高い効果が得られた相乗効果が「クロスメディア・プレミアム」である。
図1 クロスメディアのリーチとその効果
クロスメディアは『接触前後の差分』により正確な測定が可能に
この相乗効果を「量的に」「正しく」測定することは難しいが、シングルソースパネル調査を使うことで正確に測定することができる。シングルソースパネル調査とは、同一の調査対象をある期間固定し、繰り返し調査を行う手法のことである。この調査方法を用いることで、テレビCMのみに接触した人と、テレビCMとその他のメディアに接触した人を正確に区別することができる。さらに、メディアの接触状況別に『接触後』の購入意向や購入実態を測定するのではなく、『接触前後の差分』を測ることで正しく効果を測定することができる。
例えば、化粧品を事例にクロスメディアの効果を測定した図1の右図の『接触後(事後)』の購入意向を見ていくと、テレビCMのみに接触した人(以下A)は17.0%、バナー広告のみに接触した人(以下B)は19.5%、テレビCMとバナー広告に接触した人(以下C)は22.0%となっている。バナー広告とテレビCMが重なっているCの購入意向が単体接触のA、Bよりも高いため、このクロスメディアには効果があったという解釈はミスリーディングである。なぜなら、A・B・Cはそれぞれ異なる特徴をもった集団であるという可能性が考慮されていないからだ。
ここで、事前と事後の差によってクロスメディアの効果を判断するとどうだろう。広告接触後の購入意向と、接触前の購入意向の差分をとると、Aは+2.4pt、Bは+1.5pt、Cは+1.5%となる。つまり、クロスメディア効果があったのではなく、バナー広告接触者において元々その化粧品の購入意向が高かったといえる。つまり、その化粧品に関心が高そうなユーザーに対してバナー広告をターゲティングできていたと考えることができる。反対に、テレビCMと雑誌広告のように複数媒体接触者の方が単媒体接触者よりも購入意向の差分が大きくなっていれば、クロスメディアによる効果はあったと判断できる。このように事前と事後の差分を用いることで、各媒体に接触している属性の違いを加味することが可能となり、真のクロスメディアによる効果を測定することができる。
媒体特性の理解により、期待できる更なる効果
最後に、クロスメディア戦略において、もうひとつ重要な要素が媒体特性の理解である。例えば、テレビCMは尺が短く伝えられる情報量は少ないが、リーチ量は圧倒的だ。雑誌であればリーチ量はテレビに劣るものの、紙媒体という特性上、様々な情報を伝えられる。テレビCMでは商品名や世界観を伝え、雑誌広告では化粧品の効能や成分など具体的な情報を伝えるなどの使い分けが重要となる。また、バナー広告はテレビ離れした生活者にリーチできるが、膨大な情報量の中でまずは目に留まらなければならない。そのため、画面上で目に留まるようなインパクトを重視する必要がある。このように、各媒体の特性を鑑みたクリエイティブを用意することで、より高いクロスメディア効果が期待できる。
メディアの多様化が進む近年において、クロスメディア・プレミアムを重視した広告出稿、効果測定を行うことの重要性は今後より一層高まっていくだろう。
(インサイトシグナル事業部 原野朱加)
日本アドバタイザーズ協会 『月刊JAA』3月号
~マーケターが押さえておきたい広告効果測定の最新事情~より転載