2017年8月 1日
-広告効果測定の最新事情- 差分の差分法
広告の効果について、もはや「効果は測れないもの」という言い訳は通用しなくなってきた。Web広告の場合は、比較的、データが収集しやすいこともあり、広告の効果に対する意識が強いが、テレビCMを始めとするマスメディアの場合は、まだ十分な効果測定ができているとはいえない。そこで、今回から「広告効果測定の最新事情」と題して、1年間をかけて、広告効果の測定に関する新しい取り組みや指標について紹介していきたい。
「差分の差分法」による因果関係の明確化
広告の効果を考える際に、もっとも大きな問題となるのが「因果関係」を明確にすることである。広告を出稿したことで、売上や需要が拡大したこと明確に示す必要がある。
例えば、気温が上昇する時期に、清涼飲料やビールの広告を出稿した場合を考えてみよう。当然、売上は増加するが、この売上の増加が「気温上昇」によるものなのか、「広告出稿」によるものなのかを分解しなければならない。単純な広告出稿量と、売上の変化を比較しただけでは広告効果は測定できない。このような効果を測定するための方法として『差分の差分法』という考え方が有効である。
差分の差分法は、社会科学や計量経済学で用いられる統計的な手法である。例えば、保育所を整備したことによって、女性の就労率が高まったことなどを説明する際に用いられている。保育所の整備が女性の就労率を高めたのか、女性就労率が高い地域だからこそ保育所を整備したのか、相関関係を説明することは簡単だが、因果関係を説明することは難しい。その場合に、保育所を整備した地域と、整備していない地域における女性の就労率の変化を比較することで、因果関係を説明する。データを正しく取得できれば、シンプルで非常にわかりやすい手法である。
「差分の差分法」を広告効果測定へ応用
具体的に、図1に、テレビCMの効果測定における『差分の差分法』の応用事例を紹介しよう。
アンケート調査で、広告の出稿の前後で購入意向などについて把握する。広告の前後で購入意向が高まったとしても、すべてが広告の効果によるものとは限らない。そこで、差分の差分という考え方を用いる。
はじめに、テレビCMに接触した人に限定して、購入意向の変化の「差分」をみる。図1では、テレビCMに触れることで、購入意向が+3.5%増加していることがわかる。この増加分は、すべてがテレビCMの効果ではない可能性がある。気温上昇などの季節変動の影響もあるし、テレビCM以外のメディアの影響が含まれる可能性もある。これらの影響を、差し引いて考えることが必要である。
そこで、テレビCM非接触者(コントロール群)についても、同様に、購入意向などの高まりを調査する。図1の場合は+0.4%となっている。これは、テレビCMに接触しなくても、0.4%ほど購入意向が高まったことを表している。
最終的なテレビCMの効果については、テレビCMに接触することで高まった購入意向から、テレビCMに接触しなくても高まった購入意向を引いた値で評価する。「差分の差分」という考え方である。
この考え方を用いることで、「純粋な広告の効果」だけを把握することができる。また、クロスメディアでキャンペーンを展開した場合に、個々のメディアの効果も測定することができる。各メディアの接触者と非接触者を比較することで、そのメディアに接触しなくても発生した効果を差し引くことができるため、各メディアの純粋な効果を把握することができる。
アンケート調査の結果、「テレビCMを見た人で購入意向が高かった」ので、今回の広告は効果があったというような評価を聞くことが多い。この場合、テレビCMを「見た」から「購入意向が高い」のか、もとから「購入意向が高い」から、テレビCMを「見た(覚えやすい)」のか、因果関係は明確ではない。差分の差分法は、このような課題を解決し、相関ではなく因果関係を説明するための手法として、今後も広告の効果測定で広く活用されていくことになるであろう。
図1 差分の差分法によるテレビCMの効果測定の考え方
テレビCMと接触がない人を比較対象群(コントロール群)として、
キャンペーン期間中のリーチ者における態度変容の増減で評価
(インサイトシグナル事業部 塩崎 潤一)
日本アドバタイザーズ協会 『月刊JAA』1月号
~マーケターが押さえておきたい広告効果測定の最新事情~より転載