2015年12月29日

テレビCMの覚えやすさは5年間で 「マイナス6.1ポイント」

テレビCMの覚えやすさの指標「10回接触した場合の認知率」

テレビCMの認知率に関するデータは様々なものが存在している。ただし、単純なCMの認知率だけを示したデータの場合、CMの出稿量に強く依存する。出稿量が多いほど、テレビCMは記憶に残りやすくなり、そのクリエイティブが「覚えやすい」かどうかの指標としては不十分である。

シングルソースデータでは、テレビCMに何回接触しているのかを把握できる。同時に、テレビCMの認知率についても調査を実施しており、テレビCMの接触頻度別に認知率を集計することができる。これらのデータを利用して、NRIでは、テレビCMの覚えやすさの指標として「10回接触した場合の認知率」をデータとして蓄積している。10回接触した人だけに限定して、テレビCMの認知率を集計することで、出稿量に依存しない「覚えやすさ」の指標として比較することができる。

過去のデータをみると、10回程度の接触でテレビCMの覚えやすさは頭打ちになる傾向がある。言い換えると、10回接触しても覚えられないクリエイティブの場合は、15回接触しても覚えられない傾向にあるといえる。そのため、NRIでは、テレビCMの覚えやすさの指標として、「10回接触した場合の認知率」を基準としている。

「10回接触した場合の認知率」は38.6%から32.5%に減少

「10回接触した場合の認知率」の分布を整理した結果(図表参照)をみると、2009~2010年のデータでは、平均38.6%となっている。これは287事例のクリエイティブの平均値であり、分布をみると、「10回接触した場合の認知率」は30~39%の人が最も多くなっている。

これに対して、2015年のデータでは、分布は20~29%の人が最も多くなっており、平均値も32.5%である。5年前と比較して、2015年の場合、平均が「マイナス6.1ポイント」になっており、ここ5年で「6.1ポイント」ほどテレビCMが覚えにくくなったと言える。

2009~2010年の「38.6%」を母数として考えると「6.1ポイント」の減少幅は15.8%にあたる。極端な言い方をすると、5年前にはテレビCMを覚えてくれた人のうち15.8%の人は覚えてくれなくなってきている。たった5年間で15.8%も効率が悪化したとも考えられる。

分布を比較すると、認知率が50%以上のクリエイティブが減少し、30%未満が増加している。2015年の「10回接触した場合の認知率」は、平均値でみると32.5%であるが、最頻値は20~29%となっており、10回接触しても4分の1程度の人の記憶にしか残らないクリエイティブが多くなっていることがわかる。

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「覚えやすさ」はテレビCMを評価する上で重要な指標である。これは単純な「認知率」とは、まったく異なる指標である。テレビCMの単純な「認知率」を高めるためには、出稿量を増やせばよい。テレビCMに触れる人の割合が多くなれば、テレビCMの全体的な「認知率」は高めることができる。これは「たくさんお金を使え」と言っているだけであり、効率を高めることにはつながらない。

テレビCMの効率を高めるためには、「認知率」ではなく、「覚えやすさ」を高めることを重要である。限られた接触でも、覚えてもらいやすくすることで、テレビCMの効率を高めることができる。

10回接触しても覚えてくれない人が圧倒的に多い時代になってきており、今後は、その前提でテレビCMのクリエイティブを検討する必要がある。

背景にはテレビの「ながら視聴」の増加

5年前とくらべて、クリエイティブの質が大きく悪化したとは考えにくい。また、テレビ放送におけるCMを放送できる時間の長さは変わっていないため、テレビCMの種類が増えて覚えにくくなったわけでもない。

テレビCMが覚えにくくなった背景には「ながら視聴」が増加していることが原因として考えられる。5年前と比べるとスマートフォンやタブレット端末が大きく普及した。スマートフォンなどを見ながらテレビを視聴する人も増えている。特にCMの時間は、メールなどをチェックするにはちょうど良い時間であり、以前と比べると、CMを集中しては見なくなったと考えられる。

テレビ、パソコン、スマートフォンなどを同時に見るライフスタイルは「トリプルスクリーン」などと呼ばれており、以前のように、テレビなどの1つのメディアだけに接触している時代ではなくなってきている。テレビそのものの見方の変化がCMが覚えにくくなった原因として考えられる。

短時間の接触でも覚えてもらう工夫が必要

テレビの視聴態度については、今後も大きく変化することはないであろう。「ながら視聴」の割合が減少するとは考えにくい。覚えやすいテレビCMにするためには、今後も、このような視聴態度の人が多く存在するという前提でクリエイティブを検討することが重要である。

例えば、15秒CMの冒頭部分にインパクトを持たせることなども1つの方策である。冒頭部分を「無音」で初めて、途中から印象深い音楽を「強いボリューム」でいれてインパクトを出すというテレビCMについて調査をしたことがあったが、「10回接触した場合の認知率」は低かった。これは、冒頭部分でのインパクトがないために、途中で「ながら視聴」になり、覚えてもらえなかったことなどが考えられる。「ながら視聴」が当然の視聴態度になってきており、15秒という短時間でも最初から視聴者を逃さない工夫が必要である。

また、テレビCMの中で描かれているカット数やシーン数が多すぎる場合も「10回接触した場合の認知率」は低い傾向にある。「ながら視聴」では、1つのCMをずっと見ているわけではないため、異なるシーンが多いと、同じCMとは捉えてもらえず記憶に残りにくくなっていると考えられる。

ただし、覚えやすければ良いというわけではない。覚えやすさだけを追求するのであれば、インパクトを重視し、特にメッセージ性のないクリエイティブにすることもできる。テレビCMで伝えないことを表現し、かつ、覚えてもらいやすいクリエイティブにすることが重要である。