2022年7月20日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」
データドリブンなマーケティングにこそ、消費者理解に基づくセグメンテーションを
日経新聞の読者は化粧品の購入意向が高い?低い?
昨今のDXブームの後押しもあってか、マーケティング領域でも「データドリブン」な戦略立案が重視されるようになり、高度なデータ分析ができるツールも身近になってきた。マーケティングの素人でも、ツールにデータさえ入れれば、どんな施策を打つべきかが簡単に分かる...夢のような話だが、むしろ誰にでもデータを扱うことができる時代だからこそ、消費者や商品に関する背景理解の重要性が増している。
ここでマーケティングの基本の一つ「セグメンテーション」について、実際のデータを使ってその重要性を説明したい。例えばあなたは化粧品メーカーのプロモーションの担当者だとしよう。新商品のメイクアップ化粧品の広告を新聞に出稿すべきかどうかを検討するにあたり、アンケートデータを用いて次の図1のような分析を行った。
図1:日経新聞閲読有無別のメイクアップ化粧品購入意向(性別)
男性も女性も、日経新聞の読者の方が、非読者よりもメイクアップ化粧品に関心を持っている割合が高いことが分かる。日経新聞の読者と言えば、ビジネスの最前線で働く人たちであり、身だしなみに気を遣わねばならず、また経済的にも余裕があるようなイメージを抱く。読者像とも一致する結果だ。
ところが男女合わせたデータ(図2)で見てみると、日経新聞の読者の方が非読者よりメイクアップ化粧品を使いたい人の割合が低い、という逆転現象が生じてしまった。
図2:日経新聞閲読有無別のメイクアップ化粧品購入意向(全体)
このようにデータの「部分」をみるか「全体」をみるかで、異なった結論が導かれてしまうことを「シンプソンのパラドックス」と呼ぶ。なぜこのような現象が起きるのだろうか。
データの「部分」を見るか「全体」を見るかで結論が変わることがある
この現象について詳細な説明は専門書に譲ることとするが、今回の例では、「性別」が「閲読率」と「化粧品の購入率」両方の原因になってしまっている(交絡因子)ことが原因だ。具体的には、 ①日経新聞の閲読有無にかかわらず女性は男性より化粧品を購入する割合が高い ②男性は女性より日経新聞の閲読率が高い、ということが事前に予想できる。つまり、「性別」がセグメンテーションの鍵になることが分かるはずだ。もちろん、新聞に広告を出稿するかどうかは上記の分析のみで決められるものではないが、全体の結果だけを見て「日経新聞の読者は化粧品への興味が薄い人たちである」と結論づけるのは早計と言える。
ただし、必ずしもセグメンテーションをした方が正しい結論になるとは限らず、データ全体で分析した方が正しい解釈ができるケースもある。どんなデータでもやみくもに細分化すれば良いという話ではない。正しく分析を行うには、統計学だけではなく、扱う商品やそのユーザーに関する因果関係の前提知識が不可欠だ(業界知識のない統計学者は役に立たないに違いない)。
定量的なデータ分析の結果が重宝されがちな昨今ではあるが、深い消費者理解なしに活用することはできない、ということを改めて肝に銘じたい。
出所)NRI インサイトシグナル調査 (2022年3月、関東男女20-60代)
NRI マーケティングサイエンスコンサルティング部 皆川聡美