2022年6月 1日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」

データで読み解く、デジタル広告の7つのクリエイティブパターン

デジタル広告は、「邪魔」「わずらわしい」と認識される割合が特筆して高い

日本のインターネット広告費は年々増加している。2019年にテレビCMを上回った後も上昇を続け、2021年には27,052億円に達した。(※1)。デジタル広告は形式も多様化しており、テレビCMと同じような、表現力豊かなクリエイティブ素材も多くなった。しかし、残念なことに、デジタル広告は、生活者からの印象は芳しくない。各メディアでの広告の印象をアンケート聴取したところ、デジタル広告(※2)は、「邪魔・わずらわしい」と認識される割合が38.1%と、テレビCM11.9%)、交通広告(6.9%)と比べ、特筆して高くなってしまっている。
※1 :「日本の広告費」(電通)より。 
※2インストリーム、バンパー、SNS、ポップアップバナー、埋め込みバナーの平均

デジタル広告を"憶えてくれる人"は商品カテゴリへの関与度が高いことに加え、商品の中身を吟味する消費価値観を保有

ある金融関連商品のテレビCMデジみられたタル広告の認知者を比較したところ、同じ素材・同じコミュニケーションターゲットだにもかかわらず、特徴的な違いが。デジタル広告認知者はテレビCMの認知者に比べ、消費全般において商品の中身を吟味する価値観が強かったのだ。つまりデジタル広告は "能動的に広告をみてくれる人"にしか認知されにくいのである。図1のように、テレビCMは、ちょっとしたきっかけがあれば目・耳にとめてもらいやすい一方、 「邪魔」「わずらわしい」とされがちなデジタル広告は、明確な刺激がないとスルーされてしまう。デジタル広告では、伝えたいメッセージ内容やその出し方が極めて重要になってくるのではないだろうか。

図1:生活者の知覚と広告の認知の関係

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いかにメッセージを強く届けるか。7つのクリエイティブパターン

では、スルーされがちなデジタル広告でメッセージをしっかりと伝えるには、どのようなクリエイティブ素材が有効なのだろうか。ここで、出稿量上位595個のデジタル広告(動画素材)について、タレントの有無や数字訴求、商品発話回数など23項目(※3)をフラグ付けした分析事例を紹介する。ここでは、全素材についてクラスター分析をし、7パターンに分類した後に、 認知効率や商品の購入・利用意向率を比較した。

図2:認知効率/購入・利用意向率marketing_v81_2.jpg

 出稿量あたりの認知効率が高いのは、タレントが語り掛けながら商品特徴を説明する「ストレートトーク」パターンだった。YouTube6秒のバンパー広告など、タレント+シンプルなメッセージが成功要因となっていた。一方で、購入・利用意向率が高いのは、出演者が実際に商品を使うことで、使用感や使用するときの情緒的な価値を伝達する「使用感・ユーザーなりきり」パターンだった。こちらは、利用の際の感動や驚きで共感が得やすいことが主な成功要因として挙げられた

 デジタル広告では、クリック率やコンバージョン(成約・購買)率がわかるため、クリエイティブ素材の良し悪しも機械的に判断しがちだ。一方、本分析では、クリエイティブの構成要素を"人の目で"分類し、パターを解釈の上、成功要因を考慮していくアプローチにより、クリエイティブの効果を判別した。このように、デジタル広告を出稿する際は、メッセージ内容に合わせ、形式や訴求内容からクリエイティブパターンを選定するなど、戦略的な思考プロセスも必要なのではないだろうか。

3:秒数、タレント有無、出演者の顔切り抜き、イラスト/実写、縦型/横型、動画・バナーの二段構造、音の有無、冒頭フォーカスの工夫、呼びかけ・語り掛けの有無、インパクトのある数字の有無、目立つ文字の有無、文字による説明/字幕の有無、商品発話回数、商品露出時間、説明型/イメージ型、機能訴求の有無、価格訴求の有無、キャンペーン訴求の有無、デジタル特有の企画の有無、アプリ・HP等への遷移呼びかけ、キャッチコピーの有無、使用シーンの有無、悩み・ベネフィット説明の有無

NRI マーケティングサイエンスコンサルティング部 コンサルタント 名取渚子

NRIマーケティングサイエンスコンサルティング部では、シングルソースデータによる生活者の行動を毎日継続的に収集しております。お客様のテーマや課題にあわせて、データの追加調査や分析をおこない、マーケティング課題解決のお手伝いをいたしますので、こちらより、お気軽にお問合せください。