2021年3月 8日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」

グリーンマーケティングのカギは「環境面を訴求しすぎない」こと

コロナ期でも環境を意識した消費価値観は減退せず、依然として高齢者で根強い

 20201026日、菅首相が所信表明演説において「2050年脱炭素社会の実現」を目指すと言明したこともあり、最近では多くの企業が、環境問題への取組み指針を続々と示している。その一方で、生活者に対し、環境価値を盛り込んだ「グリーン商品」を訴求していくことは容易ではない。仮に環境保護という大義が生活者に理解されても、価格が高い、実用性に欠けがちといったイメージから、購買に至りにくくなるためだ。そこで、一過性で終わらないグリーン商品の開発にあたっては、現在の生活者の関心や理解度を適切に把握することが不可欠になる。

 環境を意識した消費価値観は、生活者全体の水準としては低いが、高齢者では高い水準で安定している(図1参照)。

図1:「環境保護に配慮して商品を買う」割合推移

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 この理由としては、高齢者ほどお金と時間の両方に余裕があることが挙げられる。環境意識を消費に反映するためには、グリーン商品を納得できるまで比較検討した上で、価格の安さではなく、自らのこだわりを優先して選ぶ必要があるからだ。グリーン商品のメインターゲットとしては、現状では高齢者を重視していくべきと考えられる。

環境価値以外のメッセージでグリーン商品を訴求すれば、若年層の取り込みも可能に

 しかしながら、高齢者以外にはグリーン商品の訴求が不可能というわけではない。例えば住宅の太陽光発電設備は、再生可能エネルギーの活用による環境負荷削減という側面が強い商品でありながら、高齢者に限らず広く保有されていることがわかる。また、近年世界的に注目されている電気自動車については、特に若年層を中心に保有されている(図2参照)。温室効果ガス排出量の削減や、再生可能エネルギーの積極活用といったメッセージよりも、商品の目新しさや、月々のランニングコストの削減が可能といったメッセージが、若年層に伝わり、理解を得られているためと考えられる。

図2:太陽光発電・電気自動車保有層の年代分布

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 企業による環境問題への取組みは、従来の社会的責任の枠を超え、近年では自社ビジネスの一部として実践していこうとする傾向が強まっている。今後、グリーン商品が数多く開発され、競争が激化していく可能性もある。

 環境を意識した消費価値観の高い高齢者だけではなく、若年層にもターゲットを広げるためには、環境対応によるデメリットが気にならないようにすることが大切だ。そのためには、環境面の価値訴求は必要最低限に抑え、その他のベネフィットをわかりやすく伝えることが、グリーン商品普及の近道となる。

出所)NRI インサイトシグナル シングルソースデータ

NRI マーケティングサイエンスコンサルティング部 嶋村寧人

NRIマーケティングサイエンスコンサルティング部では、シングルソースデータによる生活者の行動を毎日継続的に収集しております。お客様のテーマや課題にあわせて、データの追加調査や分析をおこない、マーケティング課題解決のお手伝いをいたしますので、こちらより、お気軽にお問合せください。