2017年9月12日

サービス料の導入は、サービス業の生産性向上の切り札になるか?

近年、「生産性向上」というキーワードを目にする機会が増えました。人手不足に対応するとともに、より少ない労働時間で成果を出そうという取り組みが、官民ともに強化されているためでしょう。

従来のサービス業の生産性向上施策は"分母"の改善がメイン

中でも、特にサービス業は、他の先進国と比べて生産性が低いといわれており、生産性向上の取り組みが国を挙げて行われています。

例えば、2017年5月24日と6月21日の2日間、首相主催による「生産性向上国民運動推進協議会」が開催されました。ここでは、飲食業、小売業、運送業、宿泊業、介護業の5分野のサービス業を取り上げ、各業態の生産性向上に関する好事例が報告されました。

労働生産性(=付加価値/投入労働量)を向上するために、"分母(投入労働量)"を削減するためには、工業界におけるIndustrial Engineeringなどの応用が有効です。これにより、作業のムダ排除や待ち時間を効率化することができます。

一方で、"分子(付加価値)"を高めるための明確な方法論は確立されておらず、顧客のニーズにきめ細かく応えたり、機会損失を最小化するなど、個々の状況に合った打ち手を考案し、実行することが必要になります。

"分子"の向上施策として、サービス料の導入はありえるのか

"分子"の向上施策には、前述のように様々なものが考えられますが、個社や個店としての取り組みに留まってしまいます。抜本的に"分子"を向上するには、商習慣を変えるなどのより大きなレベルでの取り組みが必要になるのではないでしょうか。

例えば、一つの案として、「サービス料の導入」が挙げられます。サービス料とは、飲食店やホテルなどのサービスを提供する施設において、通常の料金とは別に上乗せされるサービスに対する料金のことです。わかりやすくいえば、海外における「チップ」のようなものです。

「おもてなし」が当たり前の日本では、「サービスは無料であるもの」という考えが根づいており、サービスに対して追加料金を支払うという仕組みは、一部の業態(高級レストランなど)を除くと定着していないのが実態だという通説があります。

実際、消費者は「サービス料」についてどのように考えているのでしょうか。

サービス料の支払いに対する考え方

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出典)野村総合研究所 シングルソースデータ(関東エリア 男女18-69歳:2017年8月12日調査 N=1,861)

高級レストランや高級ホテルなどの業態では、サービス料を支払うことを許容する割合が半数程度になっています。しかし、他の業態については支払いたくないと考える人が大半を占めているようです。

なお、世帯年収とサービス料の支払いに対する許容度には、なだらかな相関関係がありそうです。

世帯年収とサービス料の支払いに対する許容度との関係性

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(※許容度=納得した上でなら、サービス料を支払ってもよい+納得はしないが、請求されれば支払う)

出典)野村総合研究所 シングルソースデータ(関東エリア 男女18-69歳:2017年8月12日調査 N=1,861)

これでは、世帯年収の高い人だけがサービス料を支払ってもよいと考えているという、ある意味当たり前の結果にすぎません。

やはり、日本ではサービス料の導入は難しいのでしょうか・・・。

属性別に見ると全体とは異なる傾向も

しかし、属性別にサービス料の支払いに対する考え方を見てみると、異なる傾向があることがわかりました。

例えば、居酒屋での飲食については、男性20代や学生(大学、大学院、専門学校生)は、全体と比べてサービス料の支払いを許容する割合が高いことがわかりました。

居酒屋での飲食におけるサービス料の支払いに対する考え方(属性別)

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出典)野村総合研究所 シングルソースデータ(関東エリア 男女18-69歳:2017年8月12日調査 N=1,861)

また、理容室・美容室の利用について見てみると、女性20代や専業主婦・主夫は、全体と比べてサービス料の支払いを許容する割合が高いことがわかりました。

理容室・美容室の利用におけるサービス料の支払いに対する考え方(属性別)

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これらの理由としては、(1)その業態に対するありがたみ(居酒屋の場合は「申し訳なさ」?)を感じているから、(2)本人や、自身の近い友人などがその業態に従事しており、大変さがわかっているから、などが考えられます。

いずれにしても、サービス料を支払ってもよいと考えている人は、特定の属性において一定数存在しているということがわかりました。

日本のGDP(国内総生産)の7割を占めるサービス業。サービス料の導入はほんの一例ですが、どうすれば生産性向上を実現できるのか、サービス業従事者一人ひとりがアイディアを出し合っていくことが必要ではないでしょうか。

(野村総合研究所 消費サービス・ヘルスケアコンサルティング部 栗原 一馬)