縦型動画広告の視聴形態
この記事のサマリー
- 縦型動画広告は他の動画広告と比べ、 スキップされやすく、最後まで見られづらい。
- 広告が記憶に残るか、コンバージョンが起こりやすいかなど、効果の面でも特段優位なわけではなく、扱いがやや難しい広告媒体である。
- 「広告であることに気づかれづらい」という特性がある。
縦型動画広告を活用する際のポイント
- 一目で広告とわかる素材は避ける。
- CM素材の流用 (横型動画の上下に帯を付けただけのものなども含む) は、一目で「広告」とバレるリスク。
- オーガニック投稿の合間に登場しても自然に見てもらえるコンテンツ構成とすることが一案。
- 「視聴を継続させる面白さ」+「素材と商材のマッチング」を意識する。
- 冒頭を見てもらえたとしても、興味がなければスキップされるか、見た後で忘れ去られてしまう。
- スキップされないよう、「オーガニック投稿として見ても面白い」コンテンツにすることが理想。
- 見た後で忘れさせない、或いは見てすぐアクションしてもらえるよう、動画の型・内容と、売りたい商品・サービスが上手くマッチする形でコンテンツを作るとよいのではないか。
縦型動画とは
縦型動画とは「スマホを縦に持ったまま見る」ことに最適化されたプラットフォームで再生される動画のことであり、スマホを横に持ち替えなくても、フルスクリーンで動画を楽しむことが可能だ。TikTokなどの縦型動画の利用者は年々増加しており、広告媒体としての注目度も高まっている。
図1: 縦型動画メディアの利用率と代表的な例

縦型動画広告の利用率は約4割
縦型動画の利用者がどの程度いるのかを図2に示している。主要な縦型動画のプラットフォームであるTikTok, YouTubeショート, Instagramのリールを比較すると、最も利用率が高いのはYouTubeショートで、4割弱の人が利用している。
なお、この後の検証で「縦型動画の利用者」を対象にした調査が出てくるが、それらは基本的に、この三つのいずれか一つ以上を利用している方が対象にとなっている。
図2: 縦型動画の年代別利用率

出所)NRI Insight Signal調査(関東一都六県在住の生活者を対象としたWeb調査、各回約3,000ss)
「動画の短さ」が選ばれる理由
縦型動画の利用者に対して、縦型動画をなぜ利用するのかを聴取した結果が下図である。「スマホを縦にしたままでもみやすい」という回答が一定数見られるものの、最も出現率が高かったのは「短いから飽きない、時間を潰すのにちょうどよい」という回答であった。つまり映像が縦で見れることよりも、尺が短いという性質が好まれているということになる。また20代以下の若年層に絞ると「短尺である」ことを理由に挙げる割合は増加している。
図3:縦型動画を見る理由

出所)NRI Insight Signal調査(関東一都六県在住の生活者を対象としたWeb調査、各回約3,000ss)
縦型動画は広告である気づかれにくい
次に「縦型動画を見ているときに流れてくる広告」についての行動や考えを聴取すると、縦型動画広告は他の動画広告と比べ、「スキップしやすい」「広告を最後まで見ないことが多い」割合が高いという結果となった。縦型動画は、画面を上にスワイプするだけで次の動画に移れるため、見たくない広告が流れてきた際には、瞬時にスキップさせることが可能である。 一方で、一番下にあるように縦型動画広告は他の動画広告と比較して「広告であることに気がつきにくい」という特徴があることもわかった。
図4:縦型動画を見ているときに流れてくる広告についての行動・考えなど(数字の単位はpt)

出所)NRI Insight Signal調査(関東一都六県在住の生活者を対象としたWeb調査、各回約3,000ss)
オーガニック投稿になじみやすい縦型動画広告
縦型動画広告が「広告だと気づかれにくい」ことには、いくつかの要因が考えられる。例えばYouTubeなどのインストリーム広告の場合、視聴している動画の開始前や視聴中に動画広告が差し込まれるため、広告であることの判別が容易である。しかし、縦型動画の場合、動画をスワイプしていく中でランダムに動画広告が表示される形式となっているため、次に出てくる動画が広告なのか、オーガニックの投稿なのかは、一見では判断しにくい。
従来の横型のインフィード広告でも同様のことが考えられるが、縦型にすることで広告表示などに気づきにくくなっている可能性がある。横型の場合、ブランド・企業名が掲載される情報欄と広告コンテンツの境界が明確になっているが、縦型だと動画が画面いっぱいに表示されるため、境界が曖昧になっている。
さらにはクリエイティブ側の要因として、オーガニック投稿の合間に出てきても違和感なく見てもらえる素材が多く出されている、ということも考えれる。実際TikTokなどでは、インフルエンサーなどの第三者投稿を「自社の広告」として配信するメニューも用意されており、そうした仕組みもオーガニック投稿との親和性を高めることに寄与している可能性がある。
図5:縦型広告が「広告だと気づかれにくい」要因(仮説)

スワイプが関心をリセットする
縦型動画広告のその他の特色として、広告の視聴前に必ずスワイプの一動作が挟まる、という点も挙げられる。三種類の動画を続けて見てもらい、どれが最も印象に残ったのかを、ABテスト的に訊く形式で、実験的な調査を行った。動画の内容・順番は同一であるが、動画が3本連続で流れるグループでは関心が徐々に減衰していく結果になったのに対し、動画の切り替わり時に、再生をタップするという動作を挟んだグループでは、印象度について全く異なる傾向のスコアが出ている。再生前に動作が入ることで関心が都度「リセット」されたことで、連続再生時に見られた減衰傾向が解消されたと考えられる。縦型動画も再生前に必ずスワイプの動作が入るため、同様の効果が期待できる可能性がある。
図6:動画を3本見終わったあと、何番目の動画が最も印象に残ったか(ひとつ選択)

出所)NRI Insight Signal調査(関東一都六県在住の生活者を対象としたWeb調査、各回約3,000ss)
効果は他の形式と大差なし
縦型動画広告に、広告だと気づかれにくい、再生前に関心がリセットされるという特色があるのであれば、広告の視聴完了は難しくても、途中までであれば視聴される可能性が高いと考えられる。しかし、縦型動画広告は他の動画広告と比べ、見た後で内容を忘れやすいという回答結果が得られている。縦型動画視聴時にはユーザーに対して次から次へかなりの数の動画が表示されており、その大量のコンテンツの中で、内容を覚えておいてもらうハードルは高いと。また広告を見たとしても次の動画視聴に移ってしまうため、その後のコンバージョンにも繋がりにくい、という傾向も出ている。
図7:縦型動画を見ているときに流れてくる広告についての行動・考えなど

出所)NRI Insight Signal調査(関東一都六県在住の生活者を対象としたWeb調査、各回約3,000ss)
縦型動画の特性を生かしたCR制作が重要
以上をまとめると、縦型動画広告は他の動画広告と比べ、最後まで見てもらいにくく、広告としての効果も期待しにくい、やや扱いの難しい媒体といえる。但し、広告だと気づかれにくいといった特色がありますので、出稿する場合はそれが活きるクリエイティブ設計を行う必要がある。
ポイントは大きく二つある。一つ目は、一目で広告とわかる素材は避けるということである。テレビCM素材の流用など一目で「広告とバレる」素材では、「広告と気づかれにくい」という特性が活きず、即スキップされるリスクがある。これを回避するには、オーガニック投稿の合間に登場しても自然に見てもらえるコンテンツを作ることが一案である。
二つ目は、端的に言うと広告自体を面白くすることだろう。仮に広告を途中まで見てくれても、関心が持たれなければ容赦なくスキップされるため、「このまま見ていてもいいか」と思わせるだけの面白さや、好奇心の刺激が必要になる。コンテンツと商材の親和性が高ければ、より印象に残りやすくなる可能性があるためこれらを意識したクリエイティブ制作を推奨したい。
図8:縦型動画広告のクリエイティブ設計のポイント(仮説)

出所)NRI Insight Signal調査(関東一都六県在住の生活者を対象としたWeb調査、各回約3,000ss)