2022年8月31日 最新データから読み解く「NRIマーケティングレポート」
夏休みの「リベンジ旅行」はおあずけ、敢行する層でも財布の紐は緩まず
旅行ニーズは回復するも、「リベンジ」と呼ぶには心許ない水準
2020年のコロナ禍以降、3回目の夏休みシーズンがやってきた。今年はコロナ下で初めて行動制限のない夏休みとなるため、昨年・一昨年と旅行を自粛せざるを得なかった分、今年の旅行を奮発しようとする「リベンジ旅行」がトレンドとなるのではないかと注目されていた。実際欧米など海外では、サマーシーズンを迎え航空機需要の回復が報じられるなど、こうしたトレンドの兆しがみられる。一方国内では目下、「第七波」と呼ばれる爆発的な感染拡大も起こっており、大手を振って旅行に行ける状況だとも言い難い。そんな中、生活者の思いや行動はどのようになっているのだろうか。
図1は、関東在住の20代~60代の生活者に、昨年と今年の夏休みシーズン(7-8月)に旅行に行ったか(今年については予定も含む)を訊ねた結果だ。今年旅行に「行った・行く予定」の割合は、昨年行った割合より10pt程度高いが、「リベンジ」と言えるほどの回復度合いとは言い難い。なお本調査における「旅行」の行先には国内・海外の両方を含むが、帰省と日帰り旅行は除いて聴取をしている。
図1:宿泊を伴う旅行の実施状況・予定
元々旅行に行くつもりだった人は5割超。コロナ第七波を受け慎重化か
では、昨年旅行を自粛していた層に着目したらどうだろう。「リベンジ」は我慢の反動からくる消費者心理なので、自粛層ではニーズが強くなっている、ということはないか。
図2で示した「自粛層」は、コロナ禍以前の夏休みは例年旅行をしていたが、昨年の夏休みには実施しなかった生活者群である。今年元々旅行に行くつもりだった人は、全体でも自粛層でも5割を超えていたが、全体では2割・自粛層では3割の人が「予定なし」に転じたことがわかる。リベンジ旅行を計画していたものの、第七波による感染拡大を受けて見合わせにした人が相当程度いたということだろう。図1で示した控えめな変化は、需要回復のドライバーとなるはずだった自粛層が、直近の状況に合わせ姿勢を慎重化した結果と捉えられる。
図2:宿泊を伴う旅行の実施状況・予定 (今年)
今年旅行に行く人も、「旅先での消費」をコロナ前より増やすのは1割程度
最後に、今年旅行に行く・行った層に、旅先で使う金額について尋ねた結果を示す。旅客数の回復が思わしくなくとも、「リベンジ」意識で個々の消費が増えれば、業界の復調に繋がるはずだ。しかし図3の通り、コロナ前との比較で使う金額を増やすと答えた人は少ない。景気の見通しも明るくなく、奮発にまでは踏み切れないということか。
図3:旅先で一日に使う金額 (コロナ禍以前との比較)
※「よくわからない・まだ決めていない」を分母から除き集計
苦境の続く旅行・観光業界だが、宿泊を伴わず自家用車で来訪可能な近場の客の取り込みや、屋外レジャーのように客同士の「密」を避けやすいメニューの提供なども行いつつ、昨年よりは多少上向いてきたニーズを確実に刈り取りたい。まだ財布の紐の堅い消費者を相手にする中で、サービスに磨きをかける好機と捉えるのもよいだろう。
出所)NRI インサイトシグナル調査 (2022年7月、関東男女20-60代、断りがない場合はN=3,848)
NRI マーケティングサイエンスコンサルティング部 白井雄志